パーソナルケア業界:クリーニングにおける課題 第 1 部

執筆:Marcel Korevaar(マーセル・コレヴァー)、 Thomas Altmann(トーマス・アルトマン)、 Kevin Nyssen(ケビン・ニッセン)

Waterproof lipstick comparing cleaning performances

イノベーションが主導する市場では、毎年、すべてのコスメティック製品の四分の一が新製品もしくはリニューアル版として販売されています。パーソナルケア製品メーカーは、適切なクリーニングおよび除菌手順の設定と導入に努めていますが、一か所の施設で多数の異なる形態の作業を行う場合には苦労が伴います。

パーソナルケア産業では、幅広い一般消費者向けの美容および衛生用品(スキンケア、ヘアケア、個人向け衛生用品、フレグランス、日焼け止め、メイクアップ用品など)を製造しています。そして、これらの製品区分のすべてがクリーニングにおいて同様の課題、機器の設計、規制要件を持ち合わせています。

クリーニングプロセスの最適化は、運用コストとダウンタイムの削減、そして企業が掲げるサステナビリティ目標(水、化学品、エネルギー使用の削減など)の達成にとって非常に重要です。

2 部構成のうちの第 1 部にあたるこの記事の目的は、化粧品メーカーが直面するクリーニングに関する一般的な課題や業界の要件について紹介することです。第 2 部では、クリーニングおよび除菌手順を最適化する方法について、化学品の選び方から、施設で利用可能な機器の正しい設定方法までの初期ガイダンスが提供されています。また、業界で定められている要件を遵守することも含まれています。

 

1) クリーニングにおける課題と業界の要件について理解する

今日の化粧品メーカーが直面する主な課題の一つは、絶え間なく進化する状況のなかで、製造業務の効率性を維持することです。

「平均して、大手化粧品メーカーは約 10,000 種類の化粧品から成る製品ポートフォリオを持ち、毎年およそ 25% ~ 30% の製品の成分を再配合しています。この再配合のうちの約 10% には、市場や化粧品業界にとって新しい成分が使用されます。大手企業では、毎年約 80 種類の新たな成分を製品ポートフォリオに追加しています。」1

 果てしなく続くこのイノベーションに加えて、多機能で高品質な化粧品への需要の高まりは、配合の複雑さを増大させる傾向を生み出しています。これにより、メーカーは最適なクリーニング手順を定めることに一層負担を強いられています(クリーニングが困難な成分については段落 1.1 を参照)。

パーソナルケア業界におけるクリーニング製品の選択に影響を与えるもう一つの市場動向は、環境に配慮した生物由来の成分を化粧品に使用することが推進されていることです。最終的な製品としての化粧品に自然志向やオーガニックであることを謳う必要性のほか、環境に配慮した洗浄剤を使用することも、企業のサステナビリティ目標の達成にとって鍵となっています。業界をリードする多くの企業が、サステナビリティをより追求する革新的な方法を模索している中ではなおのことです。

最後に、多くの多国籍企業が、クリーニングに関するグローバルな戦略を設定することは、最終製品の品質管理の向上に重要だと捉えています。同じ原料を使用した無数のパーソナルケア製品が世界的に製造されているものの、地域の製造施設では、その地域特有の化粧品を製造することが多くあります。その結果、製造施設の場所によっては汚れ、機器の種類、限界値の設定も異なります。そのため、すべてのクリーニングソリューションを世界規模で同じように使用できるとは限らず、地域ごとに最適化する必要があります。

他にも、化粧品が FDA による化粧品と医薬品のどちらの定義に該当するのか、そして米国内で販売されるかどうかによって、地域ごとに異なる検証がクリーニングに適用されることもあります。フケ防止シャンプー、フッ素入り歯磨き粉、日焼け止め効果が謳われる化粧品などが主にこのカテゴリーに該当します。

 

1.1) クリーニングが困難な成分および要件

次のセクションでは、業界で主に使用される成分の分類別を説明し、推奨されるクリーニング剤についてもお話します。これらの分類の中では、新たな組み合わせや同様の効果を持つ新しい物質が開発されることもよくあります。

ろう状の汚れ

大量のろう状の汚れは疎水性のため、水を使ったクリーニングによる効果を阻止します。こうした汚れは水をはじくため、強固な油性またはろう状(脂肪性)の層が表面に広範に形成され、製品の残留物が残る可能性があります。クリーニングは、特に湿潤界面活性剤(汚れへの浸透性を向上させる)および可溶化を助ける補助界面活性剤の相乗作用を利用して行います。成分の相乗効果は、脂肪と粘性の分解に効果があります。


ウォータープルーフの口紅:

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図 1 ステンレススチール片を用いたクリーニング効果の比較。一般的な洗浄剤と、ろう状の汚れを除去するために特別に調合された洗浄剤を使用。


シリコン

一部のシリコンは簡単に洗浄できますが、市場に流通している多くの製品は疎水性が非常に高まるよう調合されています。これにより、優れたウォータープルーフ製品が製造できますが、機器の表面から製品を洗浄することが困難になります。これは、複数の界面活性剤を混合した洗浄剤を使用することで洗い落とすことができます。


シリコンを使用したデオドラントスティック


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図 2 ステンレススチール片を用いたクリーニング効果の比較。一般的な洗浄剤と、シリコンベースの製品を除去するために特別に調合された洗浄剤を使用。


高配合の顔料による汚れ

多くの顔料は、酸化鉄などの無機原料がベースになっています。美しく発色しますが、機器の表面に残留物やフィルム状の粉末を残し、化学品で除去することが難しくなります。界面活性剤とキレート材の相乗作用により、効果的にクリーニングできます。


顔料入りの日焼け止め:

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図 3 ステンレススチール片を用いたクリーニング効果の比較。一般的な洗浄剤と、高配合の顔料による汚れを除去するために特別に調合された洗浄剤を使用。


高配合のミネラルによる汚れ

クレイ、雲母、カオリンなどの成分により、機器の表面には残留物が付着します。手作業で簡単にふき取ることができますが、その性質により化学的な除去が非常に難しくなることもあります。この汚れは、界面活性剤とキレート材の相乗作用によりクリーニングできます。


クレイフェイスマスク:


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図 4 ステンレススチール片を用いたクリーニング効果の比較。一般的な洗浄剤と、高配合のミネラルによる汚れを除去するために特別に調合された洗浄剤を使用。


概して、パーソナルケア業界は非常に革新的で俊敏であると言えますが、汚れや成分の除去が困難であるという課題も伴います。それゆえに、クリーニングの課題に対処するには、効果の特に高い洗浄剤が必要となります。

業界向けのクリーニング​​​​​​​基準は ISO 22716 / 2007:化粧品 - 優良製造規範(Good Manufacturing Practices: GMP)2 により定められ、クリーニングについては、「一般に目に見える汚れを表面から分離および除去する作業からなる」(2.8 項)と説明されています。

さらに、このガイドラインには、連続生産または同一製品の連続するバッチの生産に機器を指定する場合は、適当な間隔で機器を清掃し、必要に応じて除菌するべきであるという説明もあります。2

The IFS HPC - Standard では、4.6.1 項に「…ハザード分析と関連するリスクの評価に基づいて、清掃および除菌のスケジュールが実施可能であり、実行されなければならない。これらは、清掃に使用される製品およびその取扱説明書に加え、清掃および/または除菌される場所を含むデータを指定するものとし、 また、清掃の頻度も指定しなければならない」と説明されています。3

クリーニングと衛生手順を導入、維持する方法が説明されたガイダンス文書は他にもあります。また、洗浄剤および除菌剤のサプライヤーを活用して、要件にすべて満たせるよう特定の基準を導入してもらうこともできます。

 

1.2) ナチュラル認証および規制に準拠した洗浄剤および除菌剤の選択

パーソナルケア企業のマーケティング戦略の多くは、環境に配慮した生物由来の成分を化粧品に使用することを推進しています。

進化する業界に対して洗浄剤を新たに開発する際には、環境保護に配慮することも求められます。複数の組織がエコラベル(Ecocert、Cosmos、NATRUE、BDIH 認証ナチュラルコスメティクス) を市場に提供しており、関連する規制に準拠した洗浄および除菌製品を提供するには、組織ごとに定められた要件について理解する必要があります。

化粧品のクリーニングには、今でも溶剤が使用されています。水性洗浄剤に変更することは、清掃手順のエコロジカル・フットプリントを向上させる最初のステップです。この変更により、作業員の安全も改善します。

キレートおよび界面活性剤は、洗浄剤の主な成分であり、エコロジカル・フットプリントに影響を与える成分でもあります。

キレート

従来、ミネラル成分を多量に含む化粧品を扱うには、EDTA(エチレンジアミン四酢酸 四ナトリウム塩)が洗浄剤の成分として使用されていました。EDTA は、環境に長期間残留する物質です。EDTA に関する大きな懸念は、環境における重金属のバイオアベイラビリティおよび再移動プロセスを助長することです。5

代替案として、EDTA の代わりとして製剤にホスホネートを使用することが解決策として実証されています。EDTA と同様に、ホスホネートの生分解性は低いとされています。ただし、ホスホネートは下水処理場で沈殿、除去され、残留物は水生生物に対して無害です。一部の国では、下水処理場のリン含有量にも制限を設けている場合があります。こうした制限は、洗剤に使用されるリン化合物の使用に世界的に反映されています。

自然界では、キレート化も広く行われています。例えば、キレート化は、植物の光合成や動物による酸素の運搬といった状況でも見られます。合成キレート剤は、窒素原子を酸素と組み合わせて使用することと同じ作用機序があり、複合体形成の中心として機能します。従来の錯化剤と比較して、この化合物は非常に良好な生物分解性を備えているため、エコの観点から、洗剤として使用するための優れた代替品となります。

界面活性剤

パーソナルケア業界におけるサステナビリティへの配慮の高まりにより、洗剤のサプライヤーはエコラベルのある界面活性剤や、危険性表示のある GHS ラベルが理想としてはないもの、またはラベル表示が最小限の界面活性剤を使用するようになっています。認証取得済みの界面活性剤は、信頼のおける調達方法、ライフサイクル全体にわたる廃棄物や汚染の削減を通して環境保護を支援しています。

その課題は、性能に関して従来の製剤と同等の洗浄剤を配合することです。同時に、洗浄剤はラベルに GHS マーク表示がなく、生分解性に優れ、非常に良好な毒性プロファイルを有することが望まれます。

 

1.3) プロセス機器:一般的な課題と要件

パーソナルケア業界では非常に多くの製品を製造しているため、広範囲にわたるプロセス機器が使用されています。機器には、シンプルな小型の部品(バケツ、ビーカー、スプーン)、ミキサーから専用性の高い溶解機やホモジナイザーまで、様々な種類があります。そうした機器は主に特定の製剤を生産するように設計されているため、すべての機器には、洗浄と除菌に関する特有の課題があります。

業界の多くの工場では、いまだに非衛生的な設計の機器で稼働を続けており、クリーニングと除菌についての課題を生み出しているのが現状です。一般的な例としては、配管のデッドレグ、洗浄サイクルにおけるデッドスポット/シャドースポット、循環停止または CIP などがあります。

新しい機器の場合、機器に関する EHEDG (European Hygienic Engineering & Design Group) ガイドラインに従います。4

現在使用されている化粧品業界の GMP2 では、機器に関する要件は、セクション 5で「 機器は意図される目的に適しており、清掃が可能で、必要に応じて除菌およびメンテナンスする必要がある」と定められています。

概要

パーソナルケア業界で使用される原料の多様さと変化の速さは、洗浄プロセスに困難な課題を生じさせかねません。それが、クリーニングが難しい製剤の場合はなおのことです。​​​​​​​一部の非衛生的な設計の機器も含め、膨大な数の製造機器が使用されていることにより、さらなる非効率性を生じさせかねません。運用コストとダウンタイムを削減し、企業が掲げるサステナビリティ目標を達成するために、こうした非効率性を特定して解決する必要があります。これらの課題は、洗浄剤のサプライヤーなど、衛生に関するパートナーが対応することができます。サポートには、清掃手順の最適化、業界にとって効果的な洗浄剤や特定の要件(例えば、ナチュラル認証を提供する組織の基準への準拠など)に沿った洗浄剤の推奨が含まれます。


参考文献

1. https://cosmeticseurope.eu/cosmetics-industry/innovation-and-future-trends-cosmetics-industry/
2. ISO 22716 / 2007、化粧品- 優良製造規範 (GMP) - 優良製造規範のガイドライン;レビュー 2017年
3. IFS HPC 2 版ガイドライン;2016年12月 ; https://www.ifs-certification.com/images/standards/ifs_hpc2/documents/IFS-HPC-v2-Guideline2.pdf
4. European Hygienic Engineering & Design Groupe (EHEDG); DOC 8 - Hygienic Design Principles(衛生的な設計の原則); 第 3 版、2018年3月
5. European Chemicals Bureau、European Union Risk Assessment report edetic acid EDTA(欧州連合リスク評価レポート エデト酸 EDTA)PL1,49、2004年

著者

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