パーソナルケア用品業界:洗浄における課題 パート 2部
イノベーションが主導する市場では、毎年、すべてのコスメティック製品の四分の一が新製品もしくはリニューアル版として販売されています。パーソナルケア製品メーカーは、適切なクリーニングおよび除菌手順の設定と導入に努めていますが、一か所の施設で多数の異なる形態の作業を行う場合には苦労が伴います。
クリーニングプロセスの最適化は、運用コストとダウンタイムの削減、そして企業が掲げるサステナビリティ目標(水、化学品、エネルギー使用の削減など)の達成にとって非常に重要です。
本トピックは 2 部構成で、パート 1 では業界が直面する一般的な課題について取り上げました。パート 2 の記事では、洗浄手順の最適化にあたって初めに考えるべきことをお伝えします。業界が定めた様々な要件に準拠しながら、化学品の選択や施設で使用する機器の正しい設置まで、ガイダンスとして参考にしてください。
1. 洗浄手順の最適化に向けた初期ガイダンス
パーソナルケア用品の製造工場における衛生管理には、信頼性と一貫性のある洗浄効果を保証する洗浄工程の理解が必要不可欠です。2.1 項では、洗浄の結果に関わるパラメータについて初めに理解すべきことを説明します。パラメータは、洗浄作業中ずっと記録する必要があります。
2.2 項では、洗浄方法の種類や概要についてより深く掘り下げます。また、施設内で使用可能な機器について考えられる制限を考慮しつつ、洗浄手順を最適化する最善の方法をいくつかご紹介します。
2.1 洗浄パラメータの基本 - シナーサークル
洗浄結果に影響するパラメータを簡単に示すのがシナーサークル1です。
効果的な初期洗浄には、以下の 4 つのパラメータが互いに補い合いながら完全な円を形成することが重要です。たとえば、1 つの要素の効果が低い場合は、他の要素でその不足を補います。それぞれのパラメータに関して考慮すべき点を以下にまとめました。
- 温度
- 一般的に、温度が高いほど洗浄効果も高まります。しかし、省エネの動き、そして作業者の安全性を高めるため、洗浄温度を下げるよになりました。
- また、デンプンやその他の炭水化物の製品残留物に対しては低温洗浄が推奨されています。
- 解決策として、自動洗浄システムを使用すれば洗浄温度を自由に選択することができます。
- 最先端のパーソナルケア洗浄剤には、低温域(摂氏 60~70 度)での化粧品(色素濃度の高いものを含む)の洗浄を可能にするものもあります。
- 時間
- 生産能力を高めるため、業界は洗浄サイクルの最適化を強く求められています。これまでは、品質を保証するために時間をかけて洗浄するのが一般的でした。そうした洗浄サイクルは、生産性を高めるようには最適化されていません。
- TiO2/FeOx を含む製品に対しては、機器に汚れを残さないよう短時間の洗浄サイクルを複数回行うことが推奨されます。
- キャンペーン時の洗浄(同一製品のバッチ間における洗浄)と製造製品入れ替え時の洗浄では通常、洗浄時間が異なります2
- 化学的作用
- パーソナルケア製品の残留物除去には、目的に特化して開発された化学品の使用が推奨されます。一般的な汚れの除去には、高い洗浄力に加え、他の洗浄有効成分(可溶化剤、錯化剤など)を含む洗浄剤が必要です。
- パート 1 の記事で「パーソナルケア業界特有の洗浄の課題」の項で取り上げたように、パーソナルケア用品の洗浄に、食品・飲料業界で使用される一般的な製品を使用することは推奨されません。それらのクリーニング製品は、比較的簡単に除去できる汚れの洗浄を目的としているためです。
- 機械的作用
- 機械的作用は一般的に機器の使用を意味します。所定の製品への使用を想定した CIP 専用システムから、特別な洗浄機器を持たず、単に全体を浸すことで洗浄を行う容器まで、業界でのオペレーションには様々な形態があります。
- 自動化されたプロセスにおいても、実際には多くの場面で用手洗浄が行われていることもあります。用手洗浄の方法は多岐にわたり、高圧洗浄ランスを使用した洗浄、水ホースによるすすぎ、またはスポンジやブラシ、モップなどの道具を使用した製造機器内部の洗浄などが見られます。これらの方法にはそれぞれ異なる機械的作用が伴い、用手洗浄が必要かどうか判断する際には作業者の安全を考慮しなければなりません。
2.2 主な洗浄方法:手順の最適化に向けたヒント
- CIP 洗浄
再循環システムにおける CIP(定置洗浄)は、今や業界標準となっています。CIP では液体を対象物内で再循環させ、温度や流れ、化学品の濃度を一定に保ちます。機器またはパイプライン内部の CIP 洗浄とは、機器を分解したり、オペレーターによる作業をほとんど、もしくはまったくなしに洗浄することを意味します。ひとつの CIP システムで異なる対象を洗浄することも可能です。
CIP 洗浄の最大のポイントはエネルギー伝達です。CIP プログラムでは、汚れを機器から除去するために必要なエネルギー量を正確に判断することが重要になります。
時間、温度、流量、洗浄剤の量の最適な組み合わせが、CIP 洗浄サイクルの成果の決め手となります。効果的な洗浄方法の基本的なパラメータは、研究所のベンチスケール試験で分析が可能です。この試験では、最も効果的な洗浄に必要な洗浄剤、温度、そして洗浄時間が明らかになります。通常はこのように研究所の試験から得られたパラメータを基礎として、CIP サイクルの開発が進められます。
CIP 洗浄では毎回同じ洗浄工程を踏むため、有効性を容易に検証することができます。この一貫性を維持するためにも、CIP システム自体の変更管理および保守システムを導入する必要があります。
洗浄工程内におけるすすぎ水の再利用も、よりエコで低コストな選択肢として検討できます。
既存の設備に CIP システムを追加する場合、高額の投資が必要になるだけでなく、実行は困難を極める可能性があります。そこがこのシステムのデメリットと言えるでしょう。
- 浸漬洗浄
CIP 洗浄が難しい場合、頑固な汚れの除去方法として有効なのは洗浄剤が入った溶液に機器を浸す方法のほか、かくはん機を使用して洗浄サイクルに機械的作用を組み込む方法です。この方法のデメリットは、化学薬品や時間、水の消費量が増える点です。したがって、使用済みの水や洗浄剤をきれいにして再利用し、水やエネルギー、化学品の消費量を最小限に抑えることが推奨されます。
- COP 洗浄
COP(分解洗浄)は、洗浄が容易な製品で使用されます。作業者は中圧もしくは高圧の洗浄機を使用して、生産設備を手作業で洗浄します。この場合のデメリットは、洗浄の成果が作業者によって変わることです。また、大型機器に対しては温度と圧力が不十分なこと、作業者の安全を確保するために使用できる洗浄剤の種類が限られることも挙げられます。
COP 洗浄によって設備の器具や重要な部品などを洗浄する際は、用手洗浄よりも部品洗浄機の使用が推奨されます。部品洗浄機による洗浄では、時間、温度、洗浄剤の濃度、水の使用量などを作業者が自由に設定することができ、作業者の能力に成果が左右されません。
- 用手洗浄
用手洗浄は簡単に開始できますが、同時に多くの課題を伴います。温度(最高 45°C)および洗浄剤の選択肢(中性 pH 域)の制約によって、洗浄効果に限界があります。また、洗浄には時間と大きな労働力を要します。作業者の能力にばらつきがあって監視が難しいことから、一貫した洗浄を続けることは困難です。
- 様々な洗浄方法のまとめ
以下の表は、それぞれの衛生管理方法のメリットとデメリットをまとめています。
パラメータ |
用手洗浄 |
COP / 浸漬洗浄 |
CIP プロセス |
温度 |
周囲温度 - 45°C 蛇口から出る温水が高温すぎる可能性がある |
周囲温度 - 95°C 対象物を浸漬させ、必要な温度まで温める時間を考慮する必要あり |
周囲温度 - 95°C システムが使用温度に保たれているため、時間のロスがない |
使用化学品 |
手洗い用の洗浄剤 作業者の安全を考慮する必要あり |
手洗いおよび CIP 用の洗浄剤 手動でシステムに洗浄剤を投入(作業者の安全を考慮すること) |
CIP 向けの洗浄剤 自動投与で安全な工程 |
濃度 |
手動による投与 (洗浄剤を多く使用するほど洗浄効果が高いと考える作業者がいる) |
手動による投与 (洗浄剤を多く使用するほど洗浄効果が高いと考える作業者がいる) |
自動投与 伝導率などを基準に濃度を監視可能(検証がスムーズに) |
時間 |
洗浄時間の短縮が見込める (ただ、完全な分解が必要) |
長い洗浄時間 (機器を完全に浸漬し、清掃温度まで温める必要がある) |
短時間での洗浄 (加熱が不要で、必要なのは洗浄にかかる時間だけ) |
機械的作用 |
高い スポンジ、ブラシ、モップなどを使用するため、効果が作業者によって異なる |
低い かくはん機のみを使用する場合が多く、追加の用手洗浄が必要 |
中程度~高い 適切な CIP ツールを使用した場合(噴射装置の圧力チェックによる制御も可能) |
検証 |
難しい 用手洗浄のプロセスを頻繁に検証する必要がある |
難しい 洗浄時間、洗浄剤の濃度、温度の情報を収集するには作業者による多くの記録作業が必要 |
可能 主な洗浄パラメータは CIP システムが自動的に記録 |
表 1:洗浄方法と各方法ごとのパラメータ概要
概要
化学品、温度、洗浄時間、および機械的作用の組み合わせによって、洗浄の効果は大きく異なります。施設で使用可能な設備によっては、これらのパラメータが制限されることもあります。清掃作業全体でパラメータを監視し、運用コストの増加や長いダウンタイム、水やエネルギーの消費量増加などにつながりかねない、非効率的な要素をいち早く見つけましょう。このような非効率要素の解決に向けて、洗浄剤のサプライヤーなど衛生関連の企業と提携することも可能です。化学品の選択から施設での導入まで、洗浄方法に応じた手順の最適化に向けてサポートが期待できます。
査読
本記事の査読を担当し、洞察に満ちたコメントと有益な提案をしてくれた Paola Piantanida さんに心から感謝します。
参考文献
1. Zeitschrift Getränkeindustrie 2004年11月 : Der Sinner'sche Kreis: Basis einer erfolgreichen Reinigung und Desinfektion.
2. American Society for Testing and Materials E3106 "Standard Guide for Science-Based and Risk-Based Cleaning Process Development and Validation"(米国試験および材料学会 E3106「科学およびリスクに基づいた洗浄プロセスの開発と検証のための標準ガイド」) www.astm.org.
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