Annex 1 において進化する汚染管理戦略の役割

汚染管理戦略は、リスクの特定と解決を促す周期的プロセスです。2020年の付録 1 のドラフト改訂を受けて、エコラボの David Keen(デビッド・キーン)が、適切に策定された CCS の役割が変化することによって生じる興味深い影響について考察します。

Two technicians looking at something in a cleanroom

汚染管理戦略(CCS)とは?


EU の規則に詳しい方ならば、規則には用語集があることをご存知だと思います。「汚染管理戦略(Contamination Control Strategy)」という用語が出てきたら、用語集を見ればその定義が分かるはずだと思われることでしょう。

Annex 1 の前のドラフト(2017年版)では、汚染管理戦略(CCS : Contamination Control Strategy)について言及はされていたものの、この言葉は用語集には掲載されていませんでした。その後、現在のバージョン(12)で掲載に至った理由はどこにあるのでしょうか。

まず、この用語の重要性と意味について考えてみましょう。この用語は「汚染」、「管理」、「戦略」の 3 つの単語を組み合わせたもので、一つの言葉として使用するとその意図が明確になります。2017年のドラフト Annex と現在の 2020年第 12 版では、Annex のスコーピングに関するセクション(1)と原則に関するセクション(2)の両方で、CCS の策定が必要な理由についてかなり詳しく説明されています。簡単に言うと、CSS は汚染リスクの特定・評価・管理をメーカーに促す周期的なプロセスであり、製品の品質、そして最終的にはエンドユーザーを守ることを意図しています。

では、この要件がドラフトの Annex に追加されたのはなぜでしょうか。それについては、最新の医薬品自主回収リストや規則の引用、あるいは無菌製剤の汚染に起因する死亡者数を見れば、汚染が現在、実際に起きている問題であることがお分かりいただけるはずです。製薬業界は実に様々な汚染の因果関係を熟知していますが、長期的な視点で見ると、これらの問題の再発防止に関してメーカーができることはほとんどないと結論付けざるを得ないでしょう。

規制や現行の GMP は、新たなベストプラクティス、技術の進歩に伴う変化、さらには何らかの失敗を経て随時更新されます。人間の心理的側面は、失敗の予測に関してはあまり頼りになりません。人間の脳は習慣に固執するあまり、前兆に気付きにくいものなのです。人は試行錯誤から最良の学びを得ると言っても過言ではありませんが、 残念ながら、こと無菌製剤の扱いに関しては、この方法は決して安全とは言えません。

こうした背景から、CCS を確立するという要件は重要な項目として 2017年のドラフト Annex に追加され、2020年ドラフト第 12 版ではさらにその重要性が増しています。


2020年ドラフト Annex 第 12 版のレビュー


ドラフト Annex 第 12 版では、全体を通して、施設の CSS で対象とすべき分野を確認しています。

セクション 2「原則」では、CCS が正常に機能することが管理と監視に対する「ヘルスチェック」の役割を果たすと記されています。また、製造作業の状態に関するデータを収集するだけでは不十分であり、むしろ、収集したデータを分析し、管理の不備を示す傾向を見出すことが必要で、さらにその発生を事前に防ぐことが何より重要であると書かれています。

ドラフトの 67~68 行目では、先に述べた傾向に関するデータを CCS に反映させ、施設における変更に応じて CCS を随時更新することを求めています。そうすることで、施設において製品品質に対するリスクをいかにして最小限に抑えるか、その方法を詳しく説明する主な文書として CSS を活用することができます。  さらに、新たに追加されたセクション 2.6 では、CSS にライフサイクルアプローチを導入し、汚染を予防する現行のリスク軽減措置をそれに組み込むよう強調しています。

75~117 行目では対象となる 14 の分野について詳しく説明しています(ドラフトでは「iii」が抜けており、番号が誤って「i」 から「xv」までとなっています)。基本的に製造作業のあらゆる側面がカバーされていますが、 施設全体としての戦略ではすべてを考慮しなければならないため、これは当然とも言えるでしょう。また、既存の品質指標と逸脱の報告を CCS のフィードバックループに組み込むことにも言及しています。

施設で何か問題が発生した場合は、再発を防止・予防し(CAPA)、それに合わせて CCS のリスクプロファイルを変更しなければなりません。このセクションの最後では、施設において製品の無菌状態を維持するには、最終滅菌法や無菌試験法以外も考慮すべきとの認識を示しています(セクション 2.7)。

無菌試験法そのものは統計的に独立した試験法であり、その結果から分かるのは汚染総量にすぎません。

セクション 3「医薬品品質システム(PQS)」では CCS に関する記述はわずかですが(セクション 3.1、パート iv)、その中で施設のリスク管理プロセスを用いて CSS の策定と維持を行うべきであるとの見解が示されています。

セクション 4「施設」の 4.3 では、アクセス制限バリアシステム(RABS)における人の介入を管理する必要性について議論しています。クリーンルームの微生物汚染の主な原因が人であることを考えると、これは合理的といえるでしょう。このセクションでは、施設は可能な限り人の介入を見直し、その必要性を排除すべきとしています。どうしても介入が必要な場合は、CCS の権限下に置くことで、潜在的に高リスクな行為について再考する姿勢を示すことができます。

セクション 4.12 では、二次汚染の可能性が高い場合について、従業員の更衣室の出入り口を分けることを検討するよう促しています。更衣室を一つにするか複数に分けるかの決定は CSS によるところであり、リスクに基づいて考慮されなければなりません。さらにこのセクションでは、クリーンルームで日常的に使用しないものが必要となる場合には、それに対して特定のリスク評価を行い、その結果に基づいてリスク軽減措置を講じるよう指導しています。日常的に使用しないものを移動する際は除菌してから行うのが通常であり、CSS に従ってその手順を文書化する必要があります。

ここで重要なのは、施設における物質の移動プロセスに洗浄と除菌の両方を組み込む必要があるという点です。汚れた表面を除菌しても意味がないため、その場合はまず洗浄を行う必要があります。この方法は普段使用しないものに対してより適しています。普段使用するものは通常三重に包装され、あらかじめ除菌されているため、このような手順は必要ありません。

ドラフトに新たに追加されたセクション 4.16 では、CCS を別のパラメータと関連付け、 施設に対して CCS 内でアイソレーターやクリーンルームの制御圧力に関する枠組みを文書化することを義務付けています。

圧力差やアラームのパラメータについて、CCS においてその根拠を証明し、明確に文書化する必要があります。

Annex のセクション 4.32 では、日常的な製造作業に必要な一方向流の気流速度範囲を定めています。

ここでは、指定された範囲を上回る、あるいは下回る気流速度を用いてその正当性を証明する必要がある場合について、CCS との関連が言及されています。 このセクションの表 3 は気流速度についてこの点を考慮して調整されていますが、 グレード B~D に対して義務付けられている気流速度試験に関する注記が付いています。表の脚注では、特定のエリアやルームにおいて製品の品質に関する特定のリスクがある場合は CCS に基づいてこの試験を実施するよう指示があります。この試験は充填ゾーン(例:最終滅菌された製品の充填時)の要件であり、グレード A の RABS に付随するものであると明記されています。

アイソレーターの不適切な操作は甚大な微生物学的リスクにつながる可能性があるため、Annex や CCS の要件でアイソレーターの扱いが強調されているのは適切と言えます。 セクション 4.22 では、CCS の一環としてアイソレーターの洗浄、除菌、または除染の方法を評価することを施設に求めているほか、 リスク評価を CCS に記載することにより、アイソレーター周辺のクリーンルームもその対象としています。アイソレーターの操作に関するリスクが高ければ高いほど、それを設置するクリーンルームのグレードも高くなければなりません。

アイソレーターシステムと RABS の両方に共通する弱点として知られているのが専用手袋です。手袋が破損すると、人とクリティカルエリアの間にあるバリアが機能しなくなります。手袋からの漏出を検知するため導入可能な機器には様々な感度レベルのものがありますが、 CCS の要件では、試験の頻度や感度については特に指定されていません。Annex で施設に対して要求されているのは、 手袋を替える頻度を検討することのみです。

セクション 5「機器」の 5.1 では、機器の適格性が最新の状態に保たれていることが求められています。機器が検証済みの設置点から移動し始めると、汚染のリスクは明らかに高まり、 QMS の重要な部分である「検証ライフサイクル」アプローチが CCS の影響を受けることになります。

セクション 6「ユーティリティ」にも真空・冷却システムに関する内容が含まれています。このガイダンスは、これらの重要なシステムのリスク評価を実施して必要な介入を行うことのメリットを特定し、それに伴うリスクが軽減されることを確認するためのものです。 セクション 6.23 には真空・冷却システムの洗浄と除菌の要件が含まれていますが、 この要件は CCS のリスク評価によって決定されるべきであるとも記されています。このように記述することで要件を緩和し、より理解しやすくしています。

次のセクション 7「作業者」の 7.10 の内容は、クリーンルーム管理に対する技術的アプローチの変化に対応する形で更新されています。クリーンルーム環境では、紙を使用したシステムに代わって電子機器の導入が進み、携帯型機器の使用が増加していますが、 すべての機器がクリーンルームでの使用を許可されるほど頑丈な作りになっているわけではありません。この新しいセクションでは、クリーンルームへの機器の移送について、これらの機器がクリーンルームでのみ使用することを条件に会社から提供され、かつ洗浄・除菌プロセスに耐え得ることを条件に、それを許可しています。これらの機器の使用と除菌については、CCS において文書化しなければなりません。

セクション 7「作業者」に新たに追加された待望の 7.14 パート iv は、グレード D 区域で手袋を着用するタイミングについて具体的に指示しています。手袋は、製品またはプロセスに対して明白な汚染リスクがある場合に着用します。これらグレードの低いエリアで手袋を着用するタイミングについては、これまでしばしば議論になっていたため、この情報は非常に有益です。2017年のドラフト Annex から新たに追加されたセクション 8 「生産と特定の技術」は、その後 2020年のドラフト第 12 版でさらに改訂されました。サブタイトル「無菌調製」の第 8.8 項では、CCS の背景にある概念について特に分かりやすく説明されており、Annex の他の部分にも当てはまる内容ですので、下記に全文を引用します。

「8.8 無菌処理を明確に定義すること。無菌処理に伴うリスクと関連する要件を特定、評価し、適切に管理すること。施設の CCS はこれらの管理、監視要件、およびその有効性の評価について許容基準を明確に定義すること。これらのリスクを管理する方法と手順を記述し、それを実施すること。許容された残留リスクについて正式に文書化すること。」

セクション 8.9 では続けて、このセクションの範囲全体について有益な提言をしています。すなわち、リスクの見直しは無菌ろ過までで終わりではなく、無菌環境の準備中やすべての処理段階、そして製品が最終容器に収められるまで適用されると述べています。

セクション 8.82 では、最終ろ過滅菌を行う際に二重ろ過を使用することを勧めています。当然ながら、他の滅菌方法ではなくろ過を使用すること、そしてインラインフィルターの数を 1 つまたは 2 つのどちらにするかの決定も CCS に含めなければなりません。

このセクションでは、フィルターと CCS について、キャンペーン製造(8.96 以降)との関連で再び言及しています。フィルターを使用する際の連続充填または期間充填は、製品あるいはガスなどのユーティリティのどちらの場合でも、バッチ間製造に対して異なるレベルのリスクを持ちます。このため、期間充填と特定の関連リスク(ろ過に関するリスクも含め)を CCS で文書化しておく必要があります。検討事項について参考になる情報がセクション 8.84 の i. から iv. に記載されていますので、ご参照ください。

セクション 8 のサブセクションでは成形同時充填(BFS)について、特定の製品に対する BFS プロセスのリスクを(リスク評価の形で)考慮すべきと述べています。この点はセクション 8.107 でもあらためて強調されています。これによると、(最終容器を形成する)成形容器の適切な滅菌保証を行うため、ポリマー保管、サンプリング、流通システムの設計、管理、メンテナンスならびに押出システムの機能について、汚染源となるリスクがないかを評価します。これを、充填機のモニタリングに加えて行います。

セクション 8 の次にあるサブセクションでは凍結乾燥(フリーズドライ)に言及しています。このセクションでも、この工程に伴うあらゆるリスクを施設の CCS で文書化することを要求しており、この工程における重要な考慮事項として微生物汚染および粒子汚染の予防に重点を置いています。またセクション 8.112 でも、バッチ間の滅菌工程におけるリスクについて慎重に検討し、施設の CCS に記載することを義務付けています。

次のサブセクションではクローズドシステムおよびシングルユースシステム(DSUS)について述べています。これらのシステムは、従来のオープン環境での製造と比較して外部汚染のリスクが低く、 その意図的な設計あるいは技術そのもののに起因する「意図せぬ」結果により、オープン環境での充填に伴う既知のリスクを軽減します。シングルユースシステム特有のいくつかのリスクを含むこれらのリスクとその軽減策についても、施設の CCS に追加する必要があります。セクション 8.19 はクローズドシステムの主な弱点、つまり無菌接続に伴うリスクに触れています。8.122 では、シングルユースシステム技術特有のリスクと、そのリスクを CCS の一部としてどのように評価すべきかについて助言しています。

 

セクション 9「生菌および非生菌に関する環境およびプロセスモニタリング」、9.1 のサブセクション「一般」では、CCS は微生物汚染および粒子汚染によるリスクを予防し、最小限に抑えるよう設計するものと記されています。この文書の前半にも同じ内容が書かれていますが、これは施設の CCS の目的を再確認する意味があります。

環境モニタリングはモニタリングシステムの重要な一部を構成するもので、CCS で特定されるリスクに対する管理レベルを実証する目的があります。個別の結果よりも、傾向を把握するより強力なツールを用いて使用中のリスク評価を定期的に見直し、再評価が必要かどうかを決定しなければなりません(第 9.4 項)。

また、このサブセクションには一部の身体的作業と分析に関する記述もあります。これらの作業や分析(EM サンプリングを除く)を実行することで、継続的なリスク評価の裏付けや証拠を得ることができます。Annex ではさらに、リスクと管理のレベルを定義する最初の作業の完了後、そのデータを利用することを提案しています。この項では、バッチ間のモニタリングプロセスの一部として EM を検討するだけでなく、クリーンルームの除菌など他のクリーンルーム管理方法の有効性を見極めるために EM を活用することを検討するよう勧めています。残念なことに、これは実績のある施設でよく見られる事例であり、クリーンルームの除菌工程の見直しや精査が行われることはほとんどなく、通常は施設の EM の結果のみを用いて工程の有効性を証明します。しかし、除菌剤が適切でない場合や、表面の除菌が不十分な場合は、汚染レベルが上昇する可能性があります。

「一般」の章に記載されている表 6 では、浮遊非生菌微粒子の制限が示されており、 広く受け入れられている 0.5μm/m3 と、賛否両論のある 5.0 μm/m3 の 2 つの制限が表記されています。

この表の注 2 では、施設の CCS との関連で、5.0μm/m3 カウントについて文書化し、その傾向を示すことに意味がある理由が科学的に説明されています。簡単に言うと、大粒子を監視し、その傾向を把握することで、その区域の有害な傾向の証拠を見つけることを目的としています。 例えば、古くなった機器から非生菌微粒子が放出され始めると、 これらの微粒子は 0.5 というより高レベルの背景雑音に埋もれてしまいますが、粒子サイズが大きい場合はより見つけやすくなります。5 ミクロンの問題に関する意見はさまざまかと思いますが、少なくともこのバージョンでは上述のように扱われています。

第 9.20 章では、特定の EM サンプルを予定通り実行できない場合のリスクを施設で評価する方法について説明しています。

(「関連する工程で汚染物質が生じ、パーティクルカウンタを損傷する可能性がある、あるいはハザードが存在する場合(例:生菌、粉末製品、放射線障害)」)。

モニタリングを行わないと重大な事態ととらえられ、リスクが明白であるため、軽減措置が必要となります。

第 9.24 章では重要区域内でのサンプリングのパフォーマンスについて触れています。端的に言うと、サンプリング技術が製造工程に有害な影響を及ぼすことがあってはなりません。これらの方法については、CCS において評価・文書化する必要があります。この章では、サンプリングを行わない方が、サンプリングを行うよりもリスクが低い場合について例を示しています。誤解のないように言うと、個人的には、環境モニタリングは正しく行われれば非常に強力なツールだと考えています。けれども、場合によってはその価値をリスクが上回ることもあります。

第 9.33 章では引き続き環境モニタリングとリスクについて、作業員のモニタリングは科学的根拠に基づくものでなければならないとしています。私はこの部分を、「ジェネリックアプローチ」よりも「リスクベースアプローチ」をとるべきであると解釈しています。

例えば、介入の回数に関係なく、重要な介入後に毎回モニタリングを実施するプロセスは、終了後に 1 回だけ実施する場合よりも価値が高いかもしれません。繰り返しになりますが、いずれの場合もモニタリングの頻度について CCS 内でその根拠を説明する必要があります。

セクション 9 で施設の CCS について述べている最後の部分は第 9.37 章、パート xii になります。ここでは、期間充填の開始時と終了時の行動(多くの場合、通常の行動とは異なり、よりリスクが高い)について、無菌処理のシミュレーションのようなものをともに実行すべきと書かれています。


結論


綿密に練られた汚染管理戦略を施設に導入すれば、製品品質の欠陥が生じるリスクを軽減する効果が高まります。今回のレビューを振り返ると、戦略の文書化に関する部分を除けば、このプロセスに関して新たに行うことはないようです。基本的に、よく練られた CCS を用意しておくことで、施設が製品に関する特定のリスクとその軽減策を認識していることを規制当局の検査官や監査人に示すことができます。

施設が潜在的な問題を認識していることを明示できれば、GMP への準拠の証明にも役立ちます。

 

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Ecolab Life Sciences Expert

David Keen - 微生物コンサルティングサービスおよびバリデーション担当ディレクター
医薬品微生物学団体 Pharmig 現議長

David の経歴


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